ブログ : だから、探すなって。   管理人 : 大樹様






大樹さん作:豪エンド後二次創作
ネタバレ注意!!





町は買い物客でごった返している。
雑踏の中を歩みながら、露店を冷やかすのも旅の楽しみのひとつだ。
怪しい人についていかない。
裏路地には入らない。
トラブルには関わらない。
この三つを守っていれば、一人旅で早々危険に見舞われることなんてない。
――はずだった。
すっかり油断して大通りを歩いていたらぐいと腕を引かれた。
何が起こったか気付くよりも早く小さな路地に引っ張り込まれ、口元を塞がれ――
 「みーつけた」
 「っ……、……豪さん」
 「久しぶり」
反射的に身を固くしたが、聞き慣れた声に脱力する。
――少なくとも強盗の類ではない。似たようなものかもしれないけど。
振り返ろうとしたが、背後から抱き込まれているので身動きが取れない。
また捕まってしまった。
一体、これで何度目になるだろう。
 「あれ? 何か痩せてねえ? オレ的には前のほうが抱き心地良かったんだけど。もっとちゃんと食えよ」
 「……何であたしが豪さんの好みに合わせなきゃいけないんですか」
 「そりゃ、オレの女だからでしょ」
 「だからそれは……っていうか離してください!」
 「おーおー、元気そうで何より」
暴れると、豪さんは笑い含みに囁いて腕の力を緩めた。振り返るといつもの意地悪な笑みがそこにある。
 「普通に出てこれないんですか!? びっくりするじゃないですか!」
 「こっちの方が刺激的で楽しいだろ」
 「豪さんはいつもそればっかりですよね」
 「お前はオレから逃げてばっかりだな」
 「それはっ、だから前にも言ったじゃないですか! 住む世界が違うから、別れましょうって!」
 「逃がさないとも言わなかった? オレ」
豪さんが笑みを深める。こうして平行線な会話をするのも毎度のことだ。
滞在しているのは小さな町だった。
町の周囲は野原がどこまでも続き、たまに思い出したように村があるような、はっきり言ってド田舎である。
王都は遥か彼方。のどかで退屈で、そして平穏なこの町があたしは結構気に入っていた。
だから、組織に戻った豪さんがこんなところまで来る暇はないだろうと思っていたのに……。
 「――実は豪さんって暇なんですか?」
 「失礼な。ちゃんと彩花を探すついでに仕事もしてるよ」
 「こんなところまで追う暇があるなら、もっと『楽しい』仕事をしてればいいじゃないですか」
 「かっわいくねーなあ。三ヶ月ぶりに会ったってのに。もっとこう、会いたかったとか言えないわけ?」
 「可愛くなくて結構です。もう追ってこないで下さい」
不意に豪さんがあたしの腕を取った。一瞬で間合いを詰められ、壁に追い詰められてしまう。鷹のような眼がすいと細められた。
 「追ってほしいくせに。本気で逃げてるわけじゃないだろ」
 「な……っ」
 「お前が本気でそう思ってんなら、オレだって追わねーよ。ちゃんとオレが捕まえられるように逃げてんじゃん」
すぐそこにある大通りの喧騒がどこか遠い。
低く落とされた豪さんの声がわんわんと鳴り響くようだ。
頬が熱くなるのを忌々しく思いながらあたしは豪さんを睨み返した。
 「あたしは、豪さんに捕まりたくなんか」
 「本気で逃げるなら、名前を変えるなりもっと他にやりようがあるだろ。まあ、それでも捕まえるけど?」
喉の奥で笑う豪さんは肉食獣の笑みを浮かべている。
二人だけの鬼ごっこは、いつも豪さんが鬼だ。
最初は、ゲームを好む豪さんが面白がっているだけだと思っていた。
だけど、豪さんと鬼ごっこを始めてもう随分経つ。
逃げるから追ってくるのではないかと思う。
逃げなければ、豪さんはそのうちあたしに飽きる。
だから、逃げる……わけじゃないけれど。
 「彩花が一箇所にいられねえ女だってのはよく分かってるよ」
 「なら、」
 「言っただろ、オレは気に入ったものは近くに置いとく派なの。なのにあっちこっちふらふらしやがって、追う方の身にもなれっての」
 「あたしは豪さんとは一緒にいられません。だからもう……」
 「ま、そんなとこも嫌いじゃないけど」
言って豪さんは晴れやかに笑った。思わず口を噤んでしまう。このタイミングでそれは卑怯だ。
 「お前、鬼ごっこは得意だけど、かくれんぼは下手だよなー」
 「そっ、そんなこと言うためにわざわざ追ってきたんですか!?」
 「んにゃ。あー何か腹減ったわ。メシ食いに行こうぜ、メシ。オレ昨夜から何も食ってねーんだよ」
ぱっとあたしから身を離すと、豪さんは肩を鳴らした。
言われてみれば少し疲労の色が見える。
本当に仕事しながら追ってきたのかもしれない。
相変わらず、無駄に器用だ。
 「……あっちの角のお店、おいしかったですよ」
 「じゃ、行くか」
そう言って、あたしがついてくるのが当然かのようにさっさと歩き出してしまった。
あたしは、今度は何日一緒にいられるんだろうかと考えかけて、思考を振り払った。
逃げるのは豪さんじゃなくて、いつだってあたしだ。
考えても意味がない。
 「何してんだよ。行くぞ」
 「はいはい、今行きますよ」
 「やる気ねー返事」
笑って、豪さんが自然にあたしの手を握った。
もう振り払う気にはなれなかった。



――そうして、一週間後。

寝台で眠る豪さんをちらと見てから、また追ってくるのだろうかと考える。
どこまでも追ってきそうな気がした。
なら、どこまでも逃げるしかないのかもしれない。
いつもと同じ文面の手紙を残して、あたしは夜が明ける前に宿を出た。

また、何度目かの朝が来る。


初!!SSなるものを頂いてしまいましたー☆
豪ENDその後!! 甘い!!何とも甘いですっ!!
キャラの特徴もしっかり掴んでるし、何より素晴らしい文章力!!
自分のキャラなのに思わずときめいてしまいましたっ!!(笑)
絵もなしにして心を揺るがすSSって本当に凄い・・・(改めて実感)
兎にも角にも、豪好きさんにはたまらない一品ですっ!!
大樹様、超素敵SS、本当にありがとうございましたー!!
今後も何度も読み直す事でしょう!!(笑)