ブログ : 夏楓太のスキ勝手ヤリ放題   管理人 : 夏楓太様






〔主←柚・藤〕バースデー告白計画「彼女の幸せ」





「俺たち、付き合ってるんだぜ」


衝撃の告白に、千春は混乱した・・・・・・。


(なんで、なんでっ、こんな事に〜〜っっ!!)



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その日は晴天に恵まれ、絶好の行楽日和。
標高の低い山の上り坂を、三人の若者が歩いている。


「あーーっっつ〜〜、暑いよ暑いっ。お天気良いのも考えもんだよね〜」


大きな声を上げ後ろ向きに歩きながら、うんざりニコニコ器用な表情をしているのが、柚木葉太。


「テメエは、はしゃぎ過ぎだっ。尚更暑くなるだろうがっ」

イライラ気味に葉太を睨みつつ、前髪をかき揚げる仕草が様になっているのが、藤本和真。


「結構歩いたから、ちょっと木陰で休憩しようか?」


思い切ってチャレンジしてみた淡いブルーのワンピースを、照れくさそうに時折撫でているのが、松田千春。

三人は、燃ゆるような紅葉が見頃な秋も深まった頃、近場の山に紅葉狩りに来ていた。




紅葉狩りの発案者は、例の如く柚木葉太。
あの『天野先輩バースデー告白計画』で千春が玉砕してからも、ちょくちょく遊びに誘ってくれて、藤本も文句を言いつつも、必ず同行してくれているのがお決まりのようになっていた。
千春は(こんなに無愛想な自分と一緒に居て、楽しいのかな?)と最初の頃は疑問でならなかったが、最近では自分にとって彼らと過ごす時間が、かけがえの無いモノだと感じている。

明るくひょうきんな柚木と、無愛想だけど優しい藤本。

今の千春に、欠かす事の出来ない存在だった。




「休憩?んじゃ、その辺の原っぱでいい?」


のぞき込むように千春に問いかける柚木に、彼女は笑顔で頷く。
その、華やかでは無いが、ホッとさせてくれるような可愛らしさに、男二人は無意識に笑みをこぼした。
そして三人は、比較的青葉の残る場所を見つけると、腰を下ろす。


「委員長、足、痛くないか?」


「うん、大丈夫。藤本くんが推薦した山だけあって、紅葉がすっごくキレイ。楽しいよっ。」


「ふ〜ん、・・・良かったじゃん」


「っ、俺っ、ジュース作って来たっ。柚木様特製ジュース!!」


微笑み合う二人に対し、焦ったように柚木が大きく声を上げた。
見れば、その手に水筒が握られている。


「柚木くんが作ったの?すごいっ!何のジュース?」


驚いた千春は、身を乗り出して柚木に詰め寄った。
その食いつきに気分を良くした柚木は、「どうだっ」と言わんばかりに胸を張ると、水筒のカップに中身をコポコポと移す。


「何のジュースかは、飲んでのお楽しみ♪委員長っ、飲んで、飲んでっ」


「うん、ありが・・・っっっ!!??」


喜々と寄越されたカップを千春は受け取ると、中身を見て息を飲んだ。
緑色の液体に、赤色がマーブル模様に混ざっている・・・。


「・・・・・・」


明らかに人が口にしてはいけない色。
千春は、恐る恐る匂いを嗅いでみると、以外にも甘くて美味しそうな香りがした。


(・・・見た目で判断しちゃいけないよね。柚木くんがこれだけ勧めるなら、きっと味は保証付き、なハズ・・・)


思ってるそばから決意が揺らぎそうな千春の手元を、横から藤本がのぞき込むと、同じようにギョッと目をむいた。


「!?っ柚木、テメエっ!委員長に毒を盛る気かよっ。この色、ありえねえだろうがっ!!」


がなる藤本に柚木は口を尖らせる。


「そんな事、俺がする訳無いじゃん。委員長のために、朝早くに頑張って作ってきたんだぜぇ」


柚木のすねたような口調に、千春は胸がチクリと痛む。


(そうだよね、柚木くんが頑張って作ってくれたのに飲まない訳にはいかないよね。・・・よしっ、女は度胸だっ!)


覚悟を決めた千春は、カップをギュッと握りしめる。


「柚木、お前、味見はしたんだろな?」


そして、思い切って煽り飲んだっ。


「?いいや〜。何で?」


「!?っ委員・・・っっ・・・」


「・・・・・・」


千春は煽った姿勢のまま、固まっている。
横には、止める間が無く、驚いた表情で宙に浮いた手をグッパグッパしている藤本と、ニコニコ嬉しそうな顔の柚木。


「・・・・・・委、委員長?」

バターーーンッッ!!!!


藤本が彼女の肩に手を置いた瞬間、千春は昏倒した。


「!!??委員長っ、どうしちゃったの〜〜っ!」


「どうしたもっ、こうしたもっ、あるかっっっ!このボケーーーーーっっ!!!」


騒がしく慌てた声が、薄れゆく意識の千春の耳に微かに届いた・・・・・・。




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「・・・・・・」


誰かが千春を呼んでる声がする。


「・・・・・・」


(誰だろ?知ってる気もするが、こんな素敵な声の持ち主に知り合いが居たっけ?)


もやのかかったような意識の中、千春は声に集中してみた。
どうやら声は『委員長』と呼んでいるようだ。
その事に、千春は不満を抱いた。
みんな千春をそう呼ぶが、彼女自身はあまり気に入っているとは言えないからだ。


(委員長じゃなくて、千春って呼んでよ)


不満を漏らすと、呼ぶ声の主が、動揺したように息を飲んだのが分かった。
千春は心で思ったつもりだったが、どうやら声に出てしまったらしい。
徐々にもやが晴れていき、千春は目を閉じている事に気づくと、眩しい光に慣らすように、ソッと瞼を上げた。
目の前に、誰か居る。


(・・・誰?・・・男の人?)


その人物は、千春の前髪をサラリと指で分けると、ニッと笑いかけて声を発した。


「・・・千春、大丈夫か?」


「・・・・・・」


千春の見覚えの有る人物だと気づいた。
クラスメイト。その整った顔立ちゆえに、告白する女生徒が後を絶たないほどの人気者。


「藤本・・・くん?」


「おう」


カッコ良くニヤリと笑みを浮かべるその顔は、まぎれも無く藤本だ。
千春は頭に”?マーク”を飛ばしながら気づいた。
自分が藤本に膝枕されている事実に。


「!!??っっにゃぁぁぁーーーっっっ!!!」


「!?お、おいっ」


千春は奇声を上げると、転げるように藤本の膝から飛び退いた。
幸い地面に寝ていたので、怪我する事も無く、ゴロリと転がる。
そして素早く座ると、千春は息を荒げながら、藤本を凝視した。


「委員長、だ、大丈夫か?」


その行動に明らかに動揺した藤本は、千春に近付こうと腰を浮かそうとした。が、


「ふ、藤本くんっっ。・・・なんで、藤本くんが居るのっ?」


「・・・・・・は?」


千春の言葉に、動きが止まった。
不自然に中腰の姿勢のまま、今度は藤本が千春を凝視する。


「い、委員長。何、冗談、言ってんの?」


ひきつりながら笑う藤本は、千春の様子がおかしい事に気づいた。
身を守るように身体を抱きしめ、微かに震えている。
千春は周りの様子もチラチラと見て訝しがり、自分の服装を見て、口をパクパクさせた。
そして、少し潤んだ瞳を再び藤本に向ける。


「な、何でわたし、こんな場所に居るのっ?しかも、この服。・・・・・・何で、何でこんな」


震える声。シワになりそうなほど、千春はワンピースをキツく握りしめている。 混乱する千春だが、混乱しているのは藤本も一緒で、この事態を把握しようと、頭をフル回転させていた。


「あ〜・・・、委員長、俺、誰か分かってるよね?」


「・・・・・・藤本くん」


「うん、藤本くんです。・・・じゃあさ、委員長にとって、俺ってナニ?」


「?ナニって、・・・クラスメイト?」


質問の意図が掴めない千春の素直な発言だが、明らかに藤本は傷ついた表情を浮かべた。
何故か、それを見た千春の胸に、妙な罪悪感が生まれる。


「確かにクラスメイトだけどさ。・・・でも、それ以上に仲は良いと、俺は思ってるんだけど」


視線をあらぬ方向に泳がせて、ぼやく藤本に、千春はさらに追い打ちをかけた。


「わたし、藤本くんとあまり話した事、無いと思うよ。一緒のクラスになって、まだ一年もたたないから、必要事項以外に声かけた覚え無いし」


千春達の高校は一年から持ち上がりなので、三年間一緒のクラスメイトになる予定だ。だから、これらか仲良くなる可能性が有っても、”今現在、仲が良い”というほど話した覚えは無かった。


「・・・一緒のクラスになってから、一年もたたない?」


仲が良いうんぬんでは無く、変な所に食いつく藤本。


「う、ん。正確には、半年くらい・・・・・・?」


千春は藤本がおかしいのに気づいた。
頭を抱えたかと思うと、空を降り仰ぎ、何やらブツブツ呟いている。
ちょっと怖い・・・と、千春が思い始めた頃に、藤本はやっと顔を向けてきた。


「委員長、今、何年何月?」


「・・・何で?」


「いいからっ、答えるっ!」


「・・・2007年10月」


藤本が大きくため息をついた。


「委員長、今、2009年10月だ」


「は?」


目をパチクリさせる千春に、今度は藤本が追い打ちをかけた。


「ちなみに、委員長の大好きだった『天野陽介先輩』は、今年の春に卒業した」


「うっ。な、何で天野先輩の事っ。・・・それにっ、どうしてそんなウソをつくのっ!」


顔を真っ赤にさせた千春は、泣きそうな顔になりながら、藤本に詰め寄る。


「ウソじゃない。ほら」


そう言いながら、藤本は携帯電話のディスプレイを見せた。
そこには、確かに2009年の日付が表示されている。


「こ、こんなのっ、いくらでも変えられるっ」


「んじゃ、こっち」


藤本は、携帯電話を操作して、ネットに繋ぐと、ニュースサイトの画面を見せた。
そこには、2012年ロンドンオリンピック開催の記事が記載されている。


(北京オリンピック、まだ見てないのに・・・・・・)


黙り込む千春の目の前に、藤本が座り込んだ。
不安そうな彼女に藤本はニッと笑いかけると、おもむろに話し出す。


「天野先輩の誕生日って、いつか知ってるよな」


「・・・うん」


突然何を言い出すのだろう?と怪訝な千春。


「去年の天野先輩の誕生日に『告白大作戦』なるものが決行されたんだよ」


「『告白大作戦』?・・・・・・誰が、誰に?」


「委員長が、天野先輩に」


「・・・・・・っっっ!!そ、そんな事、わたしがするはず無いっ!」


顔を真っ赤にして動揺する千春に、藤本が落ち着けとばかりに彼女の手を握る。
その瞬間千春の鼓動が大きく高鳴ったが、それに気づかぬ藤本は話を続けた。

話によると、藤本と同じくクラスメイトの柚木の二人が、千春の思いを成就させるべく、色々と手助けしてくれたらしく(この辺りははぐらかされた)、天野先輩に告白は出来たが両思いには至らなかった。が、この件を通じて、三人が友達になったのだという事だ。
その後も、三人で遊びに行く機会が多く、今日も三人で紅葉を見に来たのだと藤本は語る。


「・・・・・・」


「理解した?委員長」


千春は複雑な顔をした。
そんなに交流の無い藤本の言葉は、あまりにも信じがたい事なのに、何故か彼はウソをつかないと、心の底から思えてしまっている。
藤本が真実を語っているのなら、失われた時間の中で、培われた信頼がそうさせているのだろうか。


「・・・ちょっと、信じられない」


藤本が困ったような顔をしたのを見て、千春は焦って言葉を続けた。


「でもっ、でもね。実際こんな山に登ってるし、見たことない服を着てるし・・・というか、わたし、こんな服・・・・・・」


「すっげえ、似合ってる」


消え入りそうな語尾に被さるように藤本が真面目な顔で答えたので、一気に耳まで熱くなった顔を見せ無ないように千春は下を向いた。


「ふっ、服の事は、どうでもいいんだけど。状況が状況だし、藤本くんの言葉を今は信じるしかないと思う。で、わたし、なんでこうなっちゃったの?」


照れを隠すためにまくし立てた千春に、藤本は「あ〜」と微妙なニュアンスの声を上げた。 その不穏な感じに、千春は恐る恐る赤くなった顔を上げる。


「まあ、事故というか、悪気は無いとは思うが、悪のりがすぎるというか・・・・・・」


「っ!?・・・もしかして、柚木くんが・・・?」


藤本の、のらりくらりな口調に、居るはずの人物が一人足りない事に千春はようやく気づく。
友人達とはしゃぎすぎて、先生に怒られている柚木の姿が目に浮かんだ。
赤から青へ表情を変えた千春に、苦笑する藤木が、無言で肯定を示している。


「あいつ、委員長が卒倒したもんだから、真っ青になって「水っ水ーーーーっ」って叫びながら失踪中。そのうち戻ってくるだろうよ」


「あ、あはははは。なんでだろ、想像が出来ちゃうよ」


千春は乾いた笑い声を上げた。
なんだかなぁ〜と思いつつも、不思議と胸に暖かな感触が広がる。


「で、気絶したわたしを藤本くんが介抱しててくれたんだね。・・・ありがとう」


千春は自分の言葉に驚いた。
自分はこんなに素直にお礼が言える人間では無かったはずだ。
それなのに、明らかに”ワタシ”が変わっているのを感じる。
そして、その原因が、この二年の間に有っただろう事も確信していた。


(・・・・・・・)


失われた記憶の自分に、わずかな嫉妬を覚える。
何が有ったかは今の記憶に無いけれど、きっと素晴らしい二年だったに違いない。
千春は記憶喪失になっている事に、すでに疑問を抱いていなかった。


「礼言われるほどの事は何もしてないし。それに・・・」


(あれ?)


なんだか、藤本の笑顔がイジワルそうに見えるのは、気のせいだろうか?


「俺たち、付き合ってるんだぜ」


「・・・・・・え?」


目が点になる千春に、藤本はさらに笑顔を深めるように口の端をニーッを上げた。
そして、先ほどから握ったままの千春の手を、さらに力を強めて握る。


「委員長と、おれ、つき合ってんの」


まるで念を押す・・・いや、念を送り込むように、しっかりとした口調で繰り返す藤本。


「委員長を介抱するのは、おれの役目だから、礼なんてしなくていいんだぜ」


まだ目が点の千春に、藤本はクッと声を出して笑うと、素早くチュッと彼女の頬に口を寄せた。


「っっっ???・・・・!!!!っにゃぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!」


「ぅおっ!!」


その行為の衝撃で覚醒した千春は、本日二度目となる奇声を上げると、藤本の手を思い切り振り払いながら、ダッシュで近くの木の影に隠れた。
思わぬ馬鹿力に、転がされた藤本は、自業自得の痛みを押さえつつ、千春の方に視線を向ける。
木の影から、彼女のワンピースのすそだけが、ヒラヒラと風に吹かれて姿を見せていた。


「あっっ、ありえないっ!ありえないからっっ!!!」


「んでだよ、おれと委員長がつき合うって、ありえなくないじゃねえかっ」


あまりにも千春が断言するので、藤本はムッとなりながら答える。


「だっ、だって、藤本くんカッコ良いし、モテモテだし、可愛い娘が告白してるの、何度も見かけたしっ」


「委員長も可愛いだろっ」


「っ!!」


鼓動が大きく跳ねた。
藤本の声が、千春の隠れた木のすぐ傍から聞こえたからだ。
いつの間に近寄っていたのだろう。
胸の音が耳にうるさいくらい聞こえて、手には汗をかいている。
千春は、緊張で足まで震えてきた。


「・・・・・・千春」


「!!!!」


藤本の声が、妙にツヤを帯びて千春の名を呼んだ。その時っ、


「いっいっっんちょーーーーっ!!」


大絶叫と共に、猛スピードで千春に突っ込んでくる人影があった。


「「!?」」


千春と藤本はギョッとして見ると、嬉し泣き笑い顔の柚木が両腕を広げて、千春に突進してきていた。


「よかったーーっ。委員長っ、目が覚めたんだね〜〜〜っっっ、てっ、うわっっっ!!」


千春だけ見ていた柚木の視界には足下の石が見えておらず、勢い良く引っかかると、思い切り転ぶ。
そして、その拍子に、柚木の持っていた水筒が手から離れ、延長線上に居た千春に向かって飛んできた。


「っっ危っ、委員っっ!!」


ガッコーン!


物の見事に千春の頭に激突する水筒。
またしても止める間も無かった藤木の伸ばされた手が、むなしく中空でニギニギしているのが、千春の視界の端に見えたが、そのまますぐ暗転してしまった・・・・・・。




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(うううー、なんか賑やかだな〜)


ボヤッとした意識の中、やけにうるさい周囲の音に千春は目覚めた。
目をこすりこすり身体を起こすと、柚木の頬を、これでもかっっと言わんばかりに、藤木が引っ張っている光景が目に飛び込む。


「いっっひゃいっ〜、いひゃいよっ、や〜め〜へ〜っっ」


「ダーメーだっ!!反省しやがれっっ!」


「うぇ〜〜・・・・・・っ!?」


突然の展開に千春は呆然としていると、目覚めた事に気がついた柚木の目がキラキラ輝きだした。
そして、その視線に気づいた藤本は柚木を突き飛ばすように離すと、千春の元へとマッハで駆け寄る。


「委員長、大丈夫かっ?」


「えっ?・・・ああ、うん大丈夫だよ」


藤本の剣幕に、千春は驚きながら答えた。
いつもの彼らしくない焦りように、心配をかけてしまったんだなと千春は罪悪感を抱いた。そして同時に今、胸の鼓動が跳ねたのは何故だろう?と首を捻る。
そんな二人の目の前に、頬を真っ赤に腫らした柚木が、ダイビング土下座した。


「委員長っ、ゴメ〜ンっ。俺、俺ぇ〜っっ、委員長が死んだらどうしようかと〜〜〜」


半ベソかいて必死に謝罪する柚木に、千春は苦笑した。


「やだなぁ、あの飲み物を飲んだくらいじゃ死なないよ。・・・・・・まあ、確かに、花畑が見えそうなくらいの衝撃はあったけど・・・・・・」


「っっ〜特製ジュースもだけど、水筒がモロ頭に当たったじゃんっ!」


「えっ?・・・・・・あたっ」


柚木に言われて、千春は頭を触ると、おでこの上辺りがほんの少し腫れているのに気づいた。
ズクンズクンと疼いているし、触れればヒリヒリする。


「倒れた時にぶつけたっけ?あれ?でも柚木くん、水筒持ってたよね・・・???」


「さっき俺が駆け寄った時に、転んで水筒が委員長に当たったじゃんっ」


「え???」


柚木との会話に辻褄が合わなくて、二人の間に”?マーク”が飛び交うと、恐る恐る藤本が口を挟んだ。


「・・・・・・委員長、コイツの毒ジュース飲んだの覚えてる?」


「えっ?うん」


柚木が「毒じゃないっ」と叫んでいるが、藤本は不安が確信になりそうで、それどころでは無い。


「じゃあ、その後は?」


「その後って・・・・・・。飲んだら、目の前が真っ暗になって、目が覚めたら、柚木くんと藤本くんがケンカしてた」


「・・・・・・今、何年何月?」


「2009年10月・・・だよね」


「〜〜〜〜っっ」


その質問の意図が分からない千春は、やたら落胆している藤本を、首を傾げながら見つめた。
いったい、彼は何が言いたいんだろう?と思っていると、念を押すように、ゆっくりと藤本が口を開く。


「・・・・・・記憶、喪失の事、覚えて無いよな」


「っ?何、記憶喪失?誰が?」


この反応で決まりだった。
千春は、記憶喪失時の記憶(ややこしい・・・)は、無いらしい。
あれだけ藤本がアプローチしたのに、水泡に帰した瞬間だった。
藤本は肩を落としたが、すぐにキリッと顔を上げる。
天然な千春相手に、今までだって肩すかしは多々有った。また同じ地点に戻ったと思えばいい。


(これから頑張ればいいか・・・・・・)


自分の理性が持てばだが・・・とセルフ突っ込みをしつつ、藤本は千春に手を差し伸べる。


「立てる?」


「あ、うん。ありがとう・・・・・・?」


藤本の手を借りて立ち上がった時に、違和感を千春は覚えた。


(藤本くんの手、こんなに大きかったけ?)


藤本を妙に意識している自分に気づくと、立ち上がってすぐに千春は手を離す。
そんな心内を悟られないように、服のほこりを払いながら、千春は柚木に話しかけた。


「ゴメンね、心配かけて」


「委員長、本当に大丈夫?俺、おんぶしようか?」


「大丈夫だって。さ、紅葉見物の続き行こう?」


「・・・・・・やっぱ心配だから、手、繋ごう」


バッと差し出された柚木の左手。
男の子と手を繋ぐなんて千春には気恥ずかしかったが、柚木の心配げな表情に、ついついほだされる。
千春の手が自分の手を握ったとたん、柚木はいつものように笑顔全開になった。

千春は柚木の笑顔が好きだ。ホッとする。
それゆえに、彼の自分への心配が払拭された事がとても嬉しかった。

しかし、それが面白くない藤本。
すかさず自分も右手を差し出した。


「・・・・・・」


特に何を言うわけでもない藤本だが、千春は苦笑しながらその手に、自分の空いている手を重ねる。


「っ・・・・・・」


その瞬間、先ほど感じた違和感がまた生まれた。
男の人の大きな手を意識してしまい、千春の顔に熱がこもる。


(柚木くんは平気なのに、なんで・・・・・・)


藤本の手が軽くちからを込めて千春の手を握ると、思わず身体がビクンと反応した。
そんな千春の動揺に気づいた藤本は、彼女の顔を見て目を丸くする。


「どうした、委員長?」


「な、何でもないっ」


「・・・・・・」


何でもない訳ない顔で答える千春の表情に、藤本は驚きと微かな希望を感じた。
今まで、千春がこれほど顕著に、自分を意識してくれた事は無かったはずだ。
もしかしたら、先ほど藤本に迫られた記憶が、千春の意識下に有るのかもしれない。
藤本は嬉しそうに笑うと、さらに握るちからを強めた。


「あーーーっ、なんでふじもっちゃんに手を握られたら、その反応なのっ?さては、おれの居ない間に、ふじもっちゃん、委員長にナニかしただろ〜っ!!このスケベッ、チカンッ、変態ぃぃ〜〜!!!」


目敏く気づいた柚木は、大声で藤本を糾弾する。


「ち、ちがっ、暑いから、暑いからだよ〜っ」


「言うに事欠いて、変態ってなんだよっ!」


「変態は変態だろっ。きっと放送禁止になっちゃうようなコトを、あの手この手でしたんだっ。・・・ああ、おれの委員長が汚れてしまったぁぁぁ」


「おまえのじゃ、ねえだろうがっ!」


千春の言い訳など聞こえてないのか、いつものように怒鳴り合う二人。
しかし、その手はしっかり握り合っていた。
それを確認した千春は、何だか嬉しくなり、うるさいはずの怒号も心地よく聞こえる。

妙にざわめく自分の気持ちには気づいているが、もうしばらくは”この場所”で過ごしたい。
三人がそろっている”この場所”に。
自分のワガママだとは思う。そして、いつか何らかの選択をしなければいけないのも分かっている。が、今が本当に幸せだから、もうしばらくだけ・・・・・・。


相変わらず口ゲンカしている二人を促すように、千春は歩を進めた。

繋いだ手を、大げさに振りながら。とびきりの笑顔で。

そんな彼女を見た二人は、ハタとケンカを止めると、自然とこみ上げた笑顔で、お互い見合った。
そして、千春にあわせるように、腕を振る。


明日はどうなるか分からない。
今、この瞬間が幸せなのだ。
なら、今を楽しもうっ!
大好きな彼女のためにっ!!




<終>


夏さんからバースデーSSを頂きましたーvv
こっそり公開していらしたのをコピペで強奪(笑)
本編でくっついてないEDのその後です
とりあえず柚木が無邪気で可愛いですねv
当て馬でもいいじゃないっ!! 美味しいポジションじゃないっv(何
こうして藤本と千春は確実に愛を育んでいく訳ですねっ・・・!!
いつになく藤本が積極的で私自身きゃーと黄色い声あげちゃいましたよ
男前だからこそ許される行為!!(笑)
本編でもありそうなやりとり満載で、こいつらならやるなぁ〜とニヤニヤ読みましたv
夏さんっ!! お祝い本当にありがとうございましたーvv