サイト名 : cuocersi   管理人 : ばいおれんじ 様  




兄の居ぬ間にから浅一郎と一月小説








任務から我が家に帰ってきた僕を迎えたのは、
玄関にて仁王立ちする一月だった。

「浅一郎く〜ん……ちょっと面貸せや」

気持ち悪い猫なで声で呼ばれたかと思えば、
次にきたのはドスの利いた脅し文句。
目の前にいるのは満面の笑みを浮かべていた。
ただし両肩に置かれた手は思いっきり食い込んでいる。

あまりに予想通りだったから逆に驚いた。
原因は分かっている、此処が正念場。
だからこそ心境を悪くする訳にはいかないのだ、
立ったまま話すのもなんだろう、部屋へと案内する。



「で、何か言い残した事はあるか?」
「いきなりクナイ向けるのはどうかと思うぞ、一月」

好きな所座ってくれ、と言った傍からこれだ。
確実に殺す気で突いてきた刃を間一髪で受け止める。
さっきの任務が簡単な物で良かった!

「うちの妹がお世話になっているそうじゃないか……現在進行形で」

やっぱりそれか。
尚も引く気を見せない一月は、
殺気を駄々漏れにしたまま力で押してくる。
感情任せだからまだこちらにも利があるけれど、
これがもし忍としての攻撃なら危なかっただろう。
いくら妹馬鹿のお調子者でちゃらんぽらんでも優秀な忍なのだから。

「俺がいない間に可愛い可愛い妹に手を出しやがって……!
 このケダモノ!ロリコン!犯罪者!」
「まだ何もしてないっ!」
「って事は何かする気満々なんじゃねーか!このドスケベがっ!」

普段は人の話を聞かないくせに、
どうしてこういう時だけ、ちゃんと耳を向けているのか。
口を滑らした僕も悪いが頭の回転早すぎるだろう!
自然と溜息が漏れた。まあこれぐらいは想定内なんだが。

「忍たるもの友人だって狙われかねないんだ。
 ただでさえアイツは『出雲一月の妹』なんだから危ないっつーのに。
 恋人なんて絶好の標的なんだぞ?わかってんのか」
「……生半可な気持ちじゃない。
 僕は朝陽さんが好きだ、ずっと守っていく」
「ほお。守っていきたいでも、つもりでもなく、断言か」

奴の目を真っ直ぐ見て、はっきりと言い放つ。
少しだけ攻撃の手が緩んだ。
その一瞬の隙を突いて距離を作る、だが視線は逸らさない。
なんせまだ一月の手にはしっかり暗具が握られているのだから。
……この程度で納得するなんて最初から思ってない。

「俺は認めない」
「だったら認めてくれるまで戦うさ」
「……俺に勝てんのか?」

「勝つ」

問いかけに対し即答。
本気で殺しにかかる一月と配慮する僕では分が悪い。
苦戦するだろう。最悪、四肢の一、二本はやられるかもしれない。

でも少し躊躇しただけで一月は何が何でも排除しにくる。
だからほんの僅かなためらいだって切り捨てるべき。
それぐらいわかってないと彼の親友なんて務まらないのだ。

「本気か」
「だから言ってるだろ、生半可な気持ちじゃないって」

どちらかというと一月はわかりやすいが、今の感情は全く読めない。
いつものへらへらした表情からは想像できないような真顔。
それに加えられる眉間の皺は怒りなのかそれとも。

「……やーめった、あーあほらしあほらし」

全力でぶつけられていた殺気が和らぐ。
どうにか俺は合格したらしい。
ほっと一息吐いた瞬間、びしっと指が俺の前に突き立てられる。

「言っておくが、完全に認めた訳じゃないからな!
 お前の義兄さんとか絶対に阻止だ、阻止!
 横槍入れまくってやる!」
「はいはい」

ムキになって捲し立てる一月に半ば呆れながらも返事を。
目の前で威圧していた指、それが突然拳になって胸ぐらを掴んできた。
鮮やかな動きに反応できず、彼の好きなように締め上げられる。

「万が一でも泣かせてみろ。
 ……二度とあさひの拝めない体にしてやる」

それは朝日か、それとも朝陽さんの事か。
おそらく両方だろうなとはじき出しながら、
僕はしっかり肯定を示したのだった。



「おかえりなさい、浅一郎さん!」

一月と別れた後、僕は朝陽さんの家へ向かっていた。
彼の家でもあるから再び遭遇する可能性もあるが、
どうも出かけたらしく、幸い気配はなくて。

「ただいまです、朝陽さん」
「お仕事お疲れ様でした!
 ちょうど良かったです、今からご飯作るところだったので!」
「わあそれは楽しみだなあ!」

笑顔で出迎えてくれた彼女に疲れも吹っ飛ぶ。
さっきの一月の来襲とは大違いだ。

「あれ……浅一郎さん、首どうしたんですか?」
「え?」
「なんだか赤くなってますよ……痛そうです」

朝陽さんの絶品料理に思い馳せていれば、彼女から指摘が。
彼女が言っているのはきっとさっき締められた時に付いたものだろう。
今の今まで気付いてなかったが、言われてみれば少しひりひりする。

「今包帯持ってきますね!」
「いやお気持ちだけで大丈夫です」
「そうですか?
 え、えっと……じゃあ、せめて、おまじないを」

かかんでくださいとねだられ、背を丸める。
そっと朝陽さんの手が頬を包んで。
おまじないって……何をするんだろうか?

「い、痛いの痛いのとんでいけー!」

予測できないまま待っていれば、
背伸びをする朝陽さん、そして頬にやわらかな感触が。
あまりの出来事に呆然としていれば、朝陽さんは真っ赤になっていて。
たぶん自分も赤面しているんだろうけど。

「朝陽さん……」

照れて顔を隠そうとする彼女を遮って、
今度は自分がその頬を包む。
僕が何をしようとしているのか、察した彼女が目を閉じる。
徐々に距離は狭まり吐息が交じる。互いの唇が触れるまであと僅か。

「ただいまー!朝陽、これおみや、げ……」

寸前の所で勢いよく開いた扉。
こんな状況で誤魔化せる訳が無かった。
ぼとりと一月の足下に包みが落ちる。

しっかり目撃されたのはまず過ぎる。
今さっきかろうじて及第点を貰ったばっかりなのに。
苦笑いというか、引きつり笑いを浮かべ、僕はクナイを構える。
次の瞬間始まった一月の猛攻をかろうじて削ぎ続けながら僕は思う。

……一刻も早く認めてもらおう、そう心から願った。






ばいおさんから今年もバースデーSSを頂きましたーvv
兄の居ぬ間にから浅一郎と一月小説です!!
2人とも同じくらいヒロイン朝陽の事を大事に思っていると・・・。
でもね、ここは生みの親としてビシッと言わせて頂くと。
一月!!我が侭言うんじゃありませんっ!!(笑)
一月に一刻も早くお相手が現れるのを願うばかりです。
浅一郎・・・親ばかですが、私はめんこくて仕方ないので
一月に早く認めてもらえるといいな〜と思います〜。
それにしてもばいおさんの描く女の子って絵でも文章でも可愛すぎる!!
どうかしてるぜっ!!(何
今年も5月同盟の誓いを守って下さってありがとうございましたっ!!
お互い良い年になりますように〜!!